2014年2月7日金曜日

「不毛の地」の製作者 オレグ・ボドロフさんに聞きました。

 私たち普及委員会は、「不毛の地」の日本での公開にあたって、脚本とプロデューサーを担ったオレグ・ボドロフさんに、「不毛の地」の制作意図、これまで普及した場所とそこでの反応、そして日本への期待などをうかがいました。

①どんな目的でこの作品をつくりましたか?

 ボドロフ:このドキュメンタリーはロシアの欧州部分に住む人々と当局者たちに向けて作りました。そこではいまも32基の原子炉が運転され続けています。欧州部に住むロシア人の原発電力消費者たちは原発の民生用核エネルギーから生じる使用済み核燃料の再処理がもたらす環境上の影響について何の情報も持っていません。
 私たちは、ウラル地方に至るロシアの欧州部分から、マヤークの再処理施設のある秘密都市オゼルスクへ、情報の窓を開きたかったのです。ドキュメンタリー「不毛の地」はマヤーク再処理施設周辺の環境状況が欧州部のロシアで「クリーンな原子力エネルギーを消費していることの結果であることを示しました。環境上の危険は欧州部のロシアからウラル地方へ、ムスリュモワ村へと移っていきました。だから欧州部ロシアにもまた責任があるのです。問題は、もしこうした結果を生んでもなお、原子力発電を続けることができるのか

 私たちはこの映画を政治家やヨーロッパ諸国のNGOに向けて作りました。ロシアの国営企業は、ソビエト連邦によって建設された欧州研究炉の使用済み核燃料を再処理することによってカネをつくりたがっています。ロスアトムは欧州諸国と米国に対して、マヤークに再処理技術を持っていることを連絡しました。欧州諸国は使用済燃料を東欧からマヤークに移す案が気に入っています。しかし、政治家たちはマヤークの再処理技術について何の情報も持っていません。それはロシアの国家機密です。なぜならそれは核兵器のための技術でもあるからです。
 「ノーインフォメーション」ということは「ノープロブレン」なのか? 私たちは、欧州の政治家たちに「不毛の地」によってマヤーク一帯に起こった「結末」を知らせます。
 「不毛の地」(英語版)をドイツとノルウェーの政府に送りました。これらの国は研究炉の使用済み核燃料の保存のための長期的解決モデルを調査しました。ロシアのマヤークでの再処理はもっとも現実的な選択でしたが、ドキュメンタリー「不毛の地」を贈ったのち、ドイツとノルウェーは、ロシアに「問題を移す」という案を嫌うようになりました。

「不毛の地」は地球に住むすべての人々のために制作したものでもあります。「不毛の地」の使命は、民生用核技術も軍事用核技術も自然や人間の健康には似たような影響を与えることを示すことです。それは一つのコインの裏表なのです。
 マヤーク再処理施設はロシア原子力潜水艦の原子炉の使用済み核燃料も再処理しています。マヤークでウラン235を抽出した後、ロスアトムはそれから軍用、潜水艦用ウラン、チェルノブイリ型原子炉であるRBMK1000の燃料などを生産します。だから、軍事用の核物質は民生用の核物質へと変わり、加えて巨大な環境問題をマヤーク周辺に創りだしています。しかもRBMK1000型原子炉は両用の技術でもあります。この原子炉は兵器級プルトニウムを生産することもできます! 民生用核技術は軍事用の仕事ができるのです。
軍事用と民生用の核技術を分けることはできません。それは一つの複合技術です。だから、もし私たちが核兵器に反対して活動するなら、民生用核技術にも原子力発電にも反対して行動する必要があります。物理学者、環境主義者、反核活動家であれというのが私のビジョンです。

②制作公開年は、いつでしょうか。

ボドロフ:はい、2009年に制作しました。
 最初の上映はチェリャビンスクで行いました。マヤークの施設が今も操業しているところで。2010年に「不毛の地」はロシアのバイカル地方イルクーツクで行われた、国際ドキュメンタリー祭「人間と自然」で賞を受けました。

③ロシア以外に普及したところは? そしてその反響は?

ボドロフ:英語版を作りました。ドイツの会社が、ドイツ、スイスで普及するためにドイツ語に訳しました。以下のWebで見ることができます。
 http://www.videowerkstatt.de/schwerpunkte/die_atomfabrik_majak/ 

 バイカル国際ビデオ・ドキュメンタリー祭(2010年)で「オーディエンス賞」(視聴者賞)を受けました。そしていま、カザフスタンの人たちと今カザフ語にすることを話し合っています。

④このドキュメンタリーを制作、普及するうえで、核産業などからの抵抗はありましたか?

ボドロフ
: はい、ありました。
「不毛の地」をつくった直後、私たち「グリーンワールド」やNGOのコラ環境センター(ムルマンスク地区)仲間がコラ原発周辺の都市での巡回・移動「不毛の地」ショーをおこないました。ムルマンスクや他の都市でも上映のためのホールを予約しました。ところがショーは間際になって地元の当局により妨害されたのです。けれども私たちは200本以上のドキュメンタリーをつくり、NGOのみなさんに見せました。

去年、グリーンワールドは2度にわたって、「外国のエージェント」として検察から調査を受けました(ロシアにはそういう法律があるのです)。当局はロシアの国益に反する活動のようなものをグリーンワールドの活動のなかに見つけたかったのでしょう。最初の検査は、すべてのロシアのNGOを検査するようにとのロシア大統領の勧告のようなものだったのですが、二度目のチェックはロスアトム企業体のひとつが要請したものでした。(2014年2月)

⑤マヤーク核コンビナートから現在も「放射性核種は引き続き排出されている」のでしょうか。

ボドロフ:はい、その事実を確認します。
 これは法律家であり、核に関する法律の専門家でもあるアンドルー・タレヴリンなど、私の同僚からの情報です。アンドルーは、チェリャビンスク大学法学部の准教授です。自然の生態系への液体放射性廃棄物の排出は、ロシアの法で禁じられているにもかかわらずいまも続いています。しかしロシアの規制当局(ロシア衛生監視局長)はマヤーク核施設に特別(一時的な)規制を適用しました。

 カラチャイ湖には中位の放射性廃棄物が排出されています。テチャ川は低レベル放射性廃棄物です。最近数年の液体放射性廃棄物投棄の総量は、1年で3~4百万立法メートルです。以前は二倍でした。

 2014年には60万立方メートルの液体放射性廃棄物がこれらの自然水域に投棄されることが計画されています。これらの数字は昨年開かれた会議でのロスアトムの報告からとったものです。 マヤークの核施設は2017年まで放射性廃棄物を投棄します。その時までに液体放射性廃棄物処理の特別プラントを建設する計画です。

 このようにカラチャイ湖は、ロシア原潜の原子炉、民生用原子炉VVER-440(コラ原発の4機とノヴォヴォロネジの原子炉の2機)の使用済み核燃料再処理と、外国の科学用原子炉の使用済み燃料の再処理の技術的サイクルの一部となっています。


 カラチャイ湖は第9号池と改名され、テチャ川の貯水カスケード【連続の滝】は3号、4号、10号、11号技術池(人工池・訳者)とよばれています。その後は、自然の景観ではなく、技術的計画の一部のようです。テチャ川の下流では、人々はいまも暮らし続けています。(2014年3月9日)

0 件のコメント:

コメントを投稿